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▼ 孤城の吸血鬼編2

「黒の修道士さまがクロウリーめを退散させたー!!今宵勝利は我らにありー!!!」

クロウリー男爵が逃げ帰ったことにより、沸く村人たち。しかし、あまりにもあからさまにアレンくんと距離を取る姿に、アレンくんが半目で村人たちを見る。

「なーんでみんなそんなに離れてるんですか?」

「お気になさらずー!!」

クロウリー男爵に噛まれたアレンが吸血鬼になると、リナリーだけでなく村人たちも思っているのだろう。気にすんな、と声をかけるラビも、にんにくを首にかけ、杭を手に持っていた。どこに持ってたのそれ。

「アレンくん、噛まれたところ大丈夫?痛くない?」

アレンくんに近づいて噛まれた左手をとって傷を確認する。なまえ…と感動したようにわたしの名前を呼んだアレンくんに大丈夫だよ、と笑いかけた、

「さっきまであーんなにこわがってたのに、吸血鬼に噛まれたアレンはこわくないんさ?」

「……アレンくんはこわくないよ」

わたしがこわいのは基本的に死ぬことなのだ。痛いのも辛いのも嫌だ。クロウリー男爵と戦ったら死んでしまうと思うけれど、アレンくんはわたしを傷つけたりなんかしないってわかってるから、こわくない。目をぱちくりと瞬かせたアレンくんが、わたしを見て、その後慌てて立ちあがった。さっき最初に噛まれた村人、フランツさんがクロウリー男爵に連れ去られてしまった以上、助けに行かなければならない。あの状況では生死はわからないから、ともしかしたらもう、死んでいるかもしれないけれど。村長さんがクロウリー男爵は獲物を城へ持ち帰ってゆっくり喰うのだと遠くから拡声器を使って叫ぶ。最初の犠牲となった老婆以外、8人全員そうだったらしい。ていうかそこまで近づきたくないのだろうか。汽車に乗るのを邪魔してわたしたちを縛り付けてまで連れてきたくせに、失礼な話である。

「村長さん達はここで待っていてください。城へは僕とラビとなまえで行ってきます」

「もちろんです!!あんな化物同士の戦いの中にいたら人間の我々は死んじゃいますからー!!」

失礼さここに極まれり。わたしたちもまとめて化物扱いされてしまった。わたし村人を背に盾で頑張って守まもったんだけどなぁ?むなしい気分になりながら村人たちを置いてクロウリー男爵の城へと入る。わたしも残りたいのは山々だったけどこの村人のなかにいるのもちょっと…という気分だった。それにしても、この吸血鬼事件とクロス元帥には、何の関係があるのだろうか。アレンくんが不可解そうに師匠は一体何をしにここへ…?と呟いた。確かに、吸血鬼事件の解決をわたしたちエクソシストに任せるなんて、どう考えたっておかしい。うーん、と首を傾げながら歩いていると、ふと、甘い香りが鼻をくすぐる。この香り、さっきちょっと嗅いだような気がする。話の途中で突然ラビが倒れ、続いて身体が引っ張られて吊り下げられる。目の前にはとても大きな花。えっ。唐突な展開についていけず、呆然とその花を見つめる。パカ、と開いた花弁に冷や汗が背中を伝った。

「………花?」

「ね、ねえアレンくんこれってまさか…」

次々に花弁が開いていく花たちに囲まれ、吊るされているために逃げることもできない。アレンくんがイノセンスを発動し、大きく口を開いた花に攻撃をする。どう考えても食人花ですよね。イノセンスを発動しても盾で殴るしかないわたしはもうここで死ぬ運命なのだろうか。やっぱり村人と一緒に残ればよかった…。花に食べられる最後なんていやだよぅ。

「ラビ!!」

先程意識を失ったラビが、無抵抗に食人花の口に運ばれていく。アレンくんはひとりでわたしたちを食べようとする食人花を撃ち落としているが、蔦が絡まってそう長くは持ちそうにない。

「ラビ起きて!!」

「ラビ!このままじゃ死んじゃうよー!!」

必死の呼びかけに、ラビが微かに反応を見せた。起きたのかもしれない。少し期待に顔を輝かせたその時。

「こらそこの人間共ー!!何してる!!この子達はアレイスター様の大事な花よ!!」

看護婦のような格好をした美しい女性だった。クロウリー男爵に仕えているだろうその人は、怒った様子で花たちに捕食されそうなわたしたちを穴の上から見下ろしている。ストライク!!!突然眠っていたはずのラビの声が聞こえて、女の人からラビに視線をうつすと、ラビはやたらとキラキラした様子で女の人に向かっておーい、おーいと手を振り始めた。ねえ今の状況わかってる?わたしたち死にそうなんだよ?もういろいろ駄目だ。せめて痛くないように死にたい。涙をのんで死を覚悟した。ラビの求愛に満更でもない様子の女の人は、ポーズを決めたりしてラビにサービスしている。アレンくんが必死に呼びかけても女の人に夢中なラビに、ついにアレンんくんの堪忍袋の緒が切れた。

「聞けぇ!!!」

左手でラビの頭をぶん殴ったアレンくん。すごい音がした。わたしだったら死んでた。

「何すんさ…」

「何あんなのに興奮してんですか!!なまえも諦めない!!」

巻き添えでわたしまで怒られてしまった。いやだってもうだめだって思うでしょ。むしろ今でも思ってる。このまま花に食べられるのではないかと。アレンくんが言ったあんなの、という言葉に青筋を浮かべてラビへのサービスタイムを終えた女の人は、態度を一変させて不機嫌そうにわたしたちを見下ろした。綺麗な女の人にあんなの、って言うのは紳士としてはいかがなものか。機嫌損ねたら助けてくれるものも助けてくれなくなってしまうのでは。

「あたしはアレイスター様の助手のエリアーデ。あんた達ここに何しに来たワケ?」

「吸血鬼退治」

「男爵に連れ去られた村人を探してるんです!」

するとエリアーデと名乗ったその女の人は、今から埋めにいくところだというフランツさんを、食人花の群れに投げ捨てた。一斉にフランツさんに集った食人花はあっという間にフランツさんを食してしまう。わたしたちもあんな風に食べられてしまうのか。ちょっと痛そうすぎる。ほんと無理……。しかし食べ終えた途端、花たちの様子がおかしくなり、一瞬花に五芒星が浮かんだかと思うと、いきなりドン、と爆発する。咄嗟にイノセンスを発動して爆発から身を守るが、爆風に吹き飛ばされてしまった。このままだと城から強制退場を食らうどころか湖まで飛ばされるのでは。瓦礫もガンガンぶつかって痛いしやっぱり死ぬんだ、再び諦めたとき、がし、と腕を掴まれる。がはっ!と勢いよく城の塀から顔をだし、掴んでいたわたしを引っ張りあげたのは、アレンくんだった。

「す、すげーさオレら…!!死ぬかと思ったちょっと本気で死んじゃうかと」

「打撲程度ですみましたね。さすが特製の団服……。なまえは大丈夫ですか?」

「し、しんだ……三回くらいしんだ………」

「それはなまえが諦めた回数です」

イノセンスである程度爆発や瓦礫から身を守ったので、弱っちいわりにダメージの少ないわたしとちがい、ラビはお腹を打ち付けたらしく後ろで吐き始める。うっかりもらっちゃうからもうちょっと離れたところでやって欲しかった。ラビから顔を背けていると、アレンくんが何かに気づいたようにわたしとラビを呼ぶ。アレンくんが見つめる先には、簡易的で粗末な墓地があった。八つの墓。最初のひとりは蒸発し、フランツさんは花に食べられてしまった。つまりこれは、連れ去られた村人の数と一致するのだ。アレンくんが軽く触れると、パキン、とお墓が壊れてしまう。随分と脆いようだ。ごめんなさい、と謝るアレンくんがお墓を見て、声をあげる。

「ふたりとも!これ見てください」

急にお墓を素手で掘り始めたアレンくんに近づいて覗きこむと、村人が眠っているだろうその地面には、五芒星が浮き出ていた。他のお墓を確認してみるが、同じように五芒星が出ている。つまり、この下にいるのは、AKUMAということだろうか。先ほどの食人花に浮き出た五芒星も踏まえて考えると、もしかしたら。

「…掘ってみよう」

「…やっぱ確かめるにはそれしかねェか……」

「うん。もし予想通りだとしたら……」

「僕らは…何か大きな間違いをしてるかもしれない…」

そうして近くにあったスコップや墓標として使われていた木、そしてわたしはイノセンスの盾をスコップ代わりに使ってその場の墓を掘り始めた。イノセンスこんなことに使うのはさすがにバチ当たりじゃね?と聞かれるが効率重視である。しばらく掘ってようやく棺桶が出てくる。なかなかの重労働で少し息が切れているが、どちらが蓋を開けるかのじゃんけんを始めたアレンくんとラビをよそに、よし、と棺桶の蓋を開けようとすると、ふたりにちょいちょいちょい、と止められてしまった。

「なにやってるんさ!!!!」

「え?棺桶開けなきゃ確かめられないでしょ?」

「なまえはやらなくていいんですよ!!こういうのは男の仕事です!!」

「いやでもふたりとも嫌そうだし……」

「嫌じゃない!僕が!やる!!」

開けたら死ぬ箱とかじゃなければわたしはべつに大丈夫なんだけど。じゃんけんで負けたらしいアレンくんが両手を合わせてから棺桶をそっと開ける。中から出てきたのは、予想通り、皮の肉が腐ったAKUMAのボディだった。他の墓も全て掘り起こしてみたものの、中身は同様。つまり男爵は、AKUMAだけを襲っていたことになる。

「こりゃ吸血鬼退治じゃないさ。クロウリーって奴は…」

「ラッラビ!!」

「ラビ!うしろ!!」

突然ラビの背後に現れたクロウリー男爵はそのまま片腕でラビを城壁へ叩きつけた。すごい音を立てて壁が崩れる。死んではいないと思いたいけど、確実に怪我をしているだろう。

「………なまえは離れてて」

「…………うん」

動きが速く力が強いクロウリー男爵は、わたしのイノセンスでは不利すぎる。まあ有利なことの方が珍しいのだけど。アレンくんの言うとおりにふたりから距離をとって盾を片手に構えた。アレンくんが必死にクロウリー男爵に戦う意思がないことを説明して話を聞いてもらおうとするが、全く聞く耳を持ってはくれない。武器化を解いて話をしようとするも、伸びて後ろで縛った髪ごと首筋を鋭い歯で裂かれ、思い切り吹き飛ばされてしまった。当然、残るはわたしのみ。こっちに真っ直ぐ猛スピードで向かってくるクロウリー男爵を盾で受け止め、押し返す。奥歯を噛み締めるが、正直踏ん張ってる足がぷるぷるいってるし、今のスピードで後ろに回られたらガードなんてできない。盾でぶん殴るとしても当たる気がしないし、これは詰みではないだろうか。そう思ったところで、すごい勢いで大槌小槌とラビが飛んで来た。さっきクロウリー男爵に吹き飛ばされた際に負った怪我で、頭から地を流している。

「ちょーっとキレたさ。ブチのめしてからゆっくり話し合おうと思います!」

「面白い」

「なまえ!アレンの方頼む!」

「わかった!」

ラビだって軽い怪我ではない。ラビよりも強く吹き飛ばされたアレンくんはもっと酷い怪我をしているだろう。城の三階部分に大きな穴が開いているので、三階を目指して走り出す。当然ジャンプで三階まで上がるような能力はないので、ラビが開けた一階部分の穴から城内に入るが、ここで致命的なミスを犯してしまう。

「どうやって三階に上るの……?」

みょうじなまえ、食人花のいる怪しいお城で迷子になりました。

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